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エッセイ

ベルギーでの「ヴィオラ科のワークショップ」の様子を伝える、小玉もなさんのレポート第6弾!

小玉もなさん 11月10日(日)に、ベルギーの「Vilvoorde」という所でヴィオラのための1日ワークショップがありました。Sam Knops(サム・クノップス)先生主催で、ヴィオラ科の生徒さん27名が参加しました。ゲスト指導者として私も参加してきました。

ヴィオラ科の指導者になるための養成講座を紹介しましょう!

私たちの指導者は、前列左のイローナ・テルマーニ先生です。 今回の指導者3人は、2009年夏にデンマークの首都コペンハーゲンで行なわれたヴィオラTeacher Training Courseで、初めて知り合いました。正式には「Viola Conversion and Teacher Training Course」と名前が付いています。スズキ・メソードでヴァイオリン指導の資格を取得した人たちを対象にして行なわれる、ヴィオラ科指導者養成(転向)コースです。すでにスズキの母語教育や、鈴木先生の教えを理解し、ヴァイオリンの指導者が参加するので、基本的にはヴァイオリンとヴィオラの相違点・共通点を習い、ヴィオラの曲集を、こと細かく勉強していきます。ヴィオラは室内楽やオーケストラなど、アンサンブルにとても必要な楽器ですので、指導曲集第1巻の最初から合奏を重視したプログラムにもなっていました。

 コースはレベル1~5に分かれています。詳細は次の通りです。
・レベル1は1巻。
・レベル2は2~3巻
・レベル3は4~5巻
・レベル4は6~7巻
・レベル5は8巻と指定された協奏曲から1曲
基本的には1回の受講につき1レベルの資格を取得でき、このコースは毎年夏に行なわれます。

 コースに受講する前に自分のレベルの指導曲集を徹底的に勉強し、暗譜してから、コースに参加します。
そして1レベルを1週間、早朝から晩までテルマーニ先生からヴィオラの演奏法、教育法を習い、受講生同士で弾きあい、教えあい、ディスカッションをします。みんなでコンサートを開き、合奏もします。そしてコース終了後に資格取得試験があります。

 2009年の参加者はイタリア、フィンランド、オランダ、フランス、ベルギー、イギリス、日本そしてデンマークから各1名ずつの参加でした。受講生全員が同じ「スズキ・ハウス」と呼ばれるゲントフテ支部に、寝泊りし、自炊し、練習し、レッスンを受けました。まだまだインターネットやWifi がそこまで整備されておらず、異国のデンマークで家族からも友だちからも連絡の取れにくい状況の中で、初対面で自炊しながらの共同生活でした。24時間10日間一緒です。寝ている以外の時間はすべて、スズキ・メソードについて、自分たちの教えている生徒さんたちについて、ヴィオラについて、音楽について、ひたすら話し込み、お互いに助け合いました。試験前には勉強も一緒にし、模擬試験の練習もしあったんですよ。

 資格取得試験が終了し、初めてみんなでコペンハーゲンの街中に観光に行き、お祝いをしました。あの時の開放感はなんとも言えず、未だに忘れられない経験でした。

テルマーニ先生の教え方

 テルマーニ先生のパワーとスタミナには脱帽です。早朝から夜遅くまで受講生に笑顔を忘れず、冗談を言い、それでも厳しいレッスンを毎日指導してくださいました。受講生以上にお疲れなハズなのに、一番ご高齢な(!)テルマーニ先生が、一番お元気でした(鈴木先生みたいですよね?!)。

 テルマーニ先生は、ご両親も音楽家というご家庭に育ちました。お父様はあの有名な「バッハ弓」のアイディアを出された方で、バッハ弓で演奏したバッハの「シャコンヌ」の演奏は今でも聴くことができます。そして作曲家のカール・ニールセンのお嬢さんと再婚されました。そういう環境の中で育ったテルマーニ先生は、伝統的な音楽性を持ち、それを私たちに伝えつつ、なおかつ新しい物も上手に取り入れていくという柔軟性に優れた先生です。

分数ヴィオラのアイデア!

:Pre-Twinkle と呼ばれる初心者クラス 今回のヴィオラワークショップでは、分数ヴァイオリンをヴィオラ用に高音から順にA,D,Gと弦を張り、Cの場所にE線を張ってあります。そしてこのE線をC(ド)の音に調弦しています。彼らが弾く「習作」はなかなか楽しいですよ。参考までに、この動画をご覧ください。サムの6歳の生徒さんで、ヴァイオリンの1/8サイズを使用しています。
動画

 ロンドンには「ヴィオラ・コンヴァージョン Viola Conversion」と呼ばれる分数楽器が存在しています。日本ではまた見たことがありません。ベルギーにもないそうです。直訳すると「ヴィオラを転換した」楽器です。

この生徒たち、全員がヴィオラです! 日本でもぜひやって欲しいと思います。 この楽器の元はヴァイオリンの分数楽器なのですが、こまの下の部分に穴を開け、魂柱とこまの足を1本につなぎ合わせて、こまを立ててあります。そしてちゃんとしたヴィオラ用の弦を張ります。もちろん分数サイズのヴィオラの弦です。そうすることで、太くて低い立派なヴィオラらしい音が出ます!! 1/16からちゃんとした「ヴィオラ」を弾くことができるし、ヴィオラの音になじむことができます。ヴァイオリンの1/4サイズからは、転換されていない「本物の」ヴィオラも存在しますよ! 分数ヴァイオリンの弦を張り替えるアイデアは、まさに目から鱗。これだったら、日本の子どもたちのアンサンブル事情も変わってきてもいいかもしれません。ご参考までに、ヴィオラコンバージョンについてのサイトがありますので、ご覧ください。
サイト

キャンディーを手の甲に載せて「正しくキレイな弓の持ち方」を学びます。キャンディーを最後まで落とさなかったら、食べさせてもらえるのでみんな必死です。 今回のワークショップでは、全員がれきっとした「ヴィオリスト」でした。あるお子さんが1番最初に習う楽器をピアノやヴァイオリン、チェロを選ぶように、この27名の生徒たちはヴィオラを選んだのです。日本ではまだまだ珍しい存在ですが、スズキ・メソードではヴィオラの指導曲集を8巻まで出版しています。1巻から4巻のヴィヴァルディの協奏曲までは、ほぼヴァイオリンと同じですが、4巻後半にテレマンのヴィオラ・コンチェルトが登場し、それ以降はヴィオラの曲集です。1巻に2曲と3巻に1曲、ヴァイオリン指導曲集に入っていない曲も含まれています。2巻はヴァイオリン版と同じですが、ポジション移動が早々に出てきます。なので、ヴィオラ科の生徒さんは習うことがたくさんあり、いろいろと大変なのです。。。

ベルギーの生徒さんたとご両親たちに「むすんでひらいて」の日本語歌詞と手振りを教えているところです。お別れコンサートでは上手に歌って手振りをつけることができました!! ヨーロッパスズキ協会でのヴィオラの指導者は、基本的にヴァイオリンとヴィオラの指導資格を持っています。私自身もそうですが、初めからヴィオラを習いたい生徒さんにはヴィオラを、ヴァイオリンを習いたい生徒さんにはヴァイオリンを指導します。時には1人の生徒さんに両方とも指導します。

 イギリスでの話になってしまいますが・・・大多数の生徒さんは学校や各地域のユースオーケストラに所属しています。そこでは必ずと言っていいほど、ヴァイオリニストは人数が足りないヴィオラパートを持ちまわりします。それでヴィオラの魅力に取り付かれた生徒さんたちは、ヴァイオリンとヴィオラの両方を弾くようになるのです。

みんなで持ち寄ったおやつを、レッスンの合間に食べる生徒達。ベルギー名物のワッフルがとてもおいしかったです… 指導者の中には、ヴァイオリン科の生徒さんは「全員ヴィオラを必ず習うこと!」と決めて、ヴァイオリングループの他にヴィオラのグループ授業を必須科目としているお教室もあります。

 イギリスの夏期学校では、希望者にだけですが、「ヴァイオリン科のためのヴィオラレッスン」というクラスがあります。私はこのクラスを過去3年間担当しています。5日間で、ヴァイオリン科の生徒にヴィオラの弾き方、ヴァイオリンとの違い、アルト記号の読み方、アンサンブルなどを教え、ヴィオラ科の皆さんと一緒にお別れコンサートでヴィオラを演奏するのです。30人以上のヴィオラのみ合奏は聴き応えがありますよ。そうそう、今年の夏期学校ではコントラバス科(!)の生徒さんたちと一緒に、ヴィオラ&コントラバスのグループとして、バッハを演奏をしたんです!

 逆に、ヴィオラ科はまだまだ少人数の団体です。自分のレベルに合ったヴィオラグループを身近で探すのは大変なのです。そこでグループレッスンに参加するためだけに、ヴィオラ科の生徒さんたちはヴァイオリンを弾くことが多々あります。

長かった1日が終わり、名物ベルギービールで乾杯!とてもお世話になったサム・クノップ先生のご両親と。ちなみにこの日の気温は5度で、あまりに寒くてコートをなかなか脱げませんでした・・・ 今回のベルギーでのヴィオラワークショップを企画したサム・クノップ先生は「自分はヴィオラ奏者だ!!」のプライドから、彼の生徒さんの90%はヴィオラ科だそうです。そのうち100%にして、もっとヴィオラ科人口を増やすのが夢だそうです。2014年の2月にも今回と同じようなヴィオラワークショップを、そして3月には1週間のヴィオラ合宿を開催するそうです。

 日本だけではなく、イギリス、ベルギーでもまだまだヴァイオリンやピアノほど身近にない「ヴィオラ」。それでも自分の大好きなヴィオラを子供たちにも体験してもらいたい、という思いで奮闘されておられるサム・クノップ先生の主催する講習会に参加することができ、私自身大変光栄に思いました。2月の講習会の参加も今から楽しみしています。

 それでは、また!


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